- 2016.08.02
綾女欣伸さんによる「編集の企画」レポート!
6/18(土)第4回目は【編集の企画】。
ゲスト講師として、
朝日出版社〈アイデアインク〉編集の
綾女欣伸さんにご登壇いただきました。
音楽から出版の世界へ。
学生時代から手伝っていたインディーズレーベルで大学院修了後も働き、
その後、29歳で出版の世界に飛び込んだという綾女さん。
小さな会社で、アーティストの発掘から音源制作、
ジャケットのデザインやPV撮影、ウェブサイトの作成まで
ひとりでなんでもやらなければならないインディーズ音楽の制作経験は、
編集の仕事にも活かされているのだとか。
現在、日本では平均して毎日200冊以上もの新刊が発売されていますが
そのうち書店に置かれるのはほんの一部。ライバルは多数。
しかも、置き場所の書店の数は年々減少しているという出版業界。
・作り手と受け手との間のバランスが悪く見えるビジネスですが、
現状を悲観的に考えるのではなく、リスタートのきっかけと捉えてみる。
いまの出版の状況を乗り越えるために大切なのは、
「細かな議論をする時間があるなら、一冊でも多く面白い本を作ること」。
編集という仕事に賭ける意志を感じられる言葉が印象的でした。
アイデアインクのはじまり。
2012年にスタートした〈アイデアインク〉は
それまで仕事をした縁のある編集者の菅付雅信さんと
共同で新たに立ち上げたブックシリーズ。
津田大介、グリーンズ、Chim↑Pom、園子温など、
これからの時代を切り拓く「つくる人」を著者に迎え、
現在では第11弾まで刊行されています。
アイデアは他の業界に落ちている。
グルーヴィジョンズにデザインを依頼してできたのは、
ポストイットのように、カバー、表紙、本文用紙まで
同じ色の紙を使用した今までにはないブックデザイン。
・ブックデザインというよりもプロダクトデザインに近い発想だと思います。
グルーヴィジョンズに頼んだのも、むしろ本以外のデザインを多く行なうチームだったから。
・内容的に新書に近いが、新書ではない形を意識しています。
「もの」としての新規性でパッケージすることで、
書店で目に留めてもらうことを重視しています。
綾女さんのお話の中には
「企画」のヒントがたくさん散りばめられていました。
目指したのは「書籍とネットのあいだ」。
・中身のある本を作るためにはそれなりに時間がかかります。
かたやネットコンテンツには即時性があるけれど、
読めば「消費」されてしまうようなものも多い。
そのどちらでもないメディアを作ろうと思ったんです。
・“会社という組織の中にあっても、レーベルを通じて態度を発信していく”
という発想は、A&M、TOROJANをはじめ音楽の世界から学んだことです。
読んで面白ければ、同じレーベルの別の著者の本を買ってくれる、
というのは嬉しかったですね。
今まで本を書いたことのなかったような人物に光を当てて、
未来の社会をつくるためのアイデアを文字に刻んで
世の中に送り出していく。
そんな綾女さんのつくる本には哲学科での学びや、
音楽の仕事で培った「外」の視点が息づいていることを感じました。
「編集」のちから。
・大事にしていることは、「本質」を追いかけて考えること。
その終わらない過程の中で本ができるのだと思う。
編集者として、著者や企画から「それ」がなくなると成り立たなくなってしまう
「それ」って何なのか、を常に考え続けています。
・究極的には、出してみるまで、その本が売れるのかどうか分かりません。
それでも、何か光るものを自分が感じ取ってしまったのならば、
それが何なのかを探りつつ、世の中に送り出すことが大切なのだと思います。
「綾女さんにとって企画とは?」
という阿部さんの問いに
「自分がほんとうに面白いと思ったものを形にすること」
「心から楽しむことで進んで巻き込まれ、それが人と人を繋げていく」
と答えてくださった綾女さん。
後半の「書評を書く」という課題講評では、一人一人の課題に、
厳しく、しかし丁寧なアドバイスをくださいました。
・自問自答を経ずに出力された、立ち回りのよい言葉が、
言葉を扱う仕事の中で目に付くことがままあります。
・企画を立てるという行為も結局は、言葉を使って考えること。
「書くことは、その『考える』訓練になる」
そう話す綾女さんの言葉の一つ一つが心に刺さり、
奮い立たされた受講生も多数いた様子。
「考える」ことの大切さを改めて実感させられた
あっという間の3時間でした。
次回は、バーグハンバーグバーグ・シモダテツヤさんによる
【WEBの企画】です。