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2018.10.17

Takram 渡邉康太郎さんによる「コンテクストの企画」レポート!


6/30(土)第5回目は【コンテクストの企画】

今回のテーマは「コンテクストの企画」。
ゲストは、一冊だけの書店「森岡書店」のブランディング、
ISSEY MIYAKEの手紙のギフト「FLORIOGRAPHY」、
「サントス ドゥ カルティエ」のための映像作品等を手掛けた
Takram 渡邉康太郎さんをお迎えしました。


誰もが、つい人に話してしまいたくなるような、大切な物語を持っている。
それを引き出すのがコンテクストデザイナーの仕事です。


そんな渡邉さんの話から講義がはじまりました。


積極的な「誤読」を生み出す。


“一冊、一室。森岡書店”のスローガンを持つ、
「一冊だけの本を売る書店」の立ち上げをサポートした時のお話。


多くの本を揃え、いつでもどこでも注文できるAmazonが利用される中、
一冊だけを扱う本屋を始めようとしたのは、森岡さんという方でした。
渡邉さんの言葉を借りれば、森岡さんは社会を「誤読した」。
社会に逆行するようなお店を始めようとしていたからです。


でも確かに、オープンすると反響は大きく、
多くのお客さんがお店に訪れました。
お客さんは一冊の本を見て、
「この本はまさに自分が探していた本だ!」と勘違いをしてくれる。
お客さんによる「誤読」です。


このように、二つの積極的な「誤読」が起こっています。



ここでいう「誤読」という言葉は、もちろん
完全な取り違えの意味とは異なります。


作り手は、メッセージを伝えようと、丁寧にものをつくる。
でもその中に、あえて矛盾や余白も残す。
読み手は、どうにか理解しようと、自ら意味づけを試みます。
この意味づけ、あるいは解釈を、全て「誤読」と呼んでいます。


「誤読」することは、読み手自身が、作品を「自分のもの」と捉えている証拠です。
誤読を通して、読み手は作品を「所有」し始めるから、だそうです。


日常の中の非日常に気づく。


次に渡邉さんが影響を受けたという2人の人物の話へ。
1人目は江戸時代の医者であり思想家だった三浦梅園です。
梅園の言葉に
「枯れ木に花咲くを驚くより、生木に花咲くを驚け」
があります。枯れ木に花が咲くような奇跡に人々は驚くが、
むしろ生きている木が花を咲かすことの不思議に目を向ける、
日常の中の非日常に気づくことが大切である、という意味です。
この考え方から、世界を常に新たな目で見つめる観察眼、
デザイナーとしての態度を教わったそうです。


2人目は文化人類学者の竹村真一さん。
竹村さんは、学生時代バックパッカーをしていて、
インドネシアの奥地にある村を訪れたそうです。
村に一つしかないテレビに映るW杯を
言葉も通じない現地の人々と観戦したそうです。
手に汗握る展開の試合が続く中、ゴールの瞬間、
竹村さんは全身の60兆個の細胞が騒ぐのを感じたそうです。
異文化の人と全く同じタイミングで、
共にゴールを喜び、歓声をあげることができたから。
「今後インターネットの社会になると、60億人と一緒に、
60兆個の細胞を震わせることもできるはずだ」

そう考えたとのことです。
渡邉さんは学生時代、竹村さんから様々な刺激を受けたそうです。



そんな竹村さんと共に、
2003年、渡邉さんが大学生の時に参加した、
「100万人のキャンドルナイト」という企画があります。
今から思えば、コンテクストデザイナーとしての
最初の仕事だったそうです。


キャンドルナイトとは、夏至の夜2時間、
電気を消してろうそくを灯して過ごそう、というムーブメントです。
環境問題を思っても、恋人とディナーをしても、親子で絵本を読んでもいい。
思い思いの過ごし方をしてもらう、という企画です。


夏至の日、一晩だけのイベントに向けてウェブサイトが立ち上がりました。
「当日、キャンドルナイトに参加します」と賛同する人が、
自身の郵便番号を入力すると、日本地図上にろうそく色の光が灯る、
というインタラクティブな仕組み。
この参加表明の「受付完了メール」を企画したのが渡邉さんでした。


当初はホームページの訪問カウンターのように、
「キャンドルナイトへの賛同ありがとうございます。
あなたは3012人目の賛同者です」

数を表示するだけの予定でしたが、渡邉さんの提案は


「キャンドルナイトへの賛同ありがとうございます。
北海道帯広市に住む賛同者の方から、
東京都杉並区に住むあなたのもとに、
ろうそくの灯がリレーされました」


というものでした。
直前に登録した人の住所を記載することで、
日本のどこかに同じ気持ちを持っている人がいて、
顔は見えなくても確かに繋がっているという証拠を、
心地よく伝えることができたそうです。


これは「キャンドルリレー」という名前で、
翌年以降のクリエイティブにも引き継がれるテーマになりました。


振り子の思考と問いの再定義。


「振り子の思考」という考え方があるそうです。
例えば、会議の中でいまの議論が具体に寄っているのか、
抽象に寄っているのか。
片方によりすぎているときは反対に振って、
それを何往復も行き来する。
すると論理的に無理のない議論になるそうです。


また、何か新しい企画に取り組む際、
そもそもの「問い」が正しいかどうかを疑うことも大切だそうです。
たくさん考えてみた結果、
問い自体をアップデートすることも、時には必要だそうです。



後半は事前課題の講評へ。


「自宅にある長く残っているものをヒントにしながら、
デジタルだけど、長く心に残るものの企画を考えてください。」


企画生が持ち寄った思い出の品の数々が並び、
いつもとは違った雰囲気に包まれたホール。


まずは講評の前に、
企画生の自宅に長く残っているものを紹介する時間に。


「171枚に及ぶ映画の半券」
「初めて住んだ部屋の間取図」
「持って帰ってしまった居酒屋の靴箱の鍵」
「13歳から書いている日記」


など特徴的な思い出の品を前に、みんなで
それにまつわるエピソードを語り合いました。



記憶は形見を求める。


次に企画の紹介へ。


「毎日のタイムカプセル」
「特別な日に特別な音を流す時計」
「一緒に年を取る時計」
「音を寄り添わせる写真」


これらの4つの企画に共通していたのは、
「ある瞬間を思い出す『きっかけ』のデザイン」であったこと。
覚えておきたい瞬間を、ふとした時に思い出す喜びを設計していることだそうです。



他にも、


・時間の経過を閉じ込めること
・生の記憶や情報を閉じ込めること
・あえて情報量を絞り、想像を促すこと
・遠くにいる相手との距離を縮めること
・「用のないもの」に自ら用を作り出すこと


といったポイントを挙げながら、
企画生の企画と、世の中のアート作品やプロダクトと
照らし合わせながら講評いただきました。




記憶は形見を求める。


抽象的な概念は、「物理的な形」を得た時に、心に残る。
アナログとデジタルを行き来し合うことにも通じる。
二つの境界を曖昧にしながら両方の良さを引き立てられるか、
ということが今後の課題であると語りました。


講義後は、「アフター企画メシ」へ。
今回は「おむすびの企画」と題して、
企画生たちが一品ずつ具を持ち寄り、
賑やかなおむすびパーティになりました!



また、企画生のヤギワタルさん考案の企画、
「企画メシ2018 人生を変えた一冊」集を渡邉さんにサプライズプレゼント!


これは出月さんというアーティストによる作品
「Hidden Library」が元になっていて、
渡邉さんがとても好きな企画だそうです。
それを知るヤギさんが準備をしてくれました。


企画生みんなで実現させることができ、これからも、
ここから様々な企画が生まれてくる予感がしました。


講義の詳細はこちらの記事でも。
https://careerhack.en-japan.com/report/detail/1015



ライター:渡邉裕哉
写真:加藤潤
Web協力:KNAP